優しく諭してくれた高城先生に不意にときめいてしまった。
それからは、慣れていないこともあってかたやすく恋に落ちていった。

だけどいつだったか、彼の左手の薬指に指輪をしてあるのを見てしまった。
仕事中も胸元の名札のポケットに入れて常に肌身離さず持ち歩いていた。

奥さんの話は誰からも聞いたことがないけど……。

もちろん本人からだって。

あの軽い調子で、俺の女房がさー、なんて話しそうなのに。


だけど、奥さんがいるのは事実だろう……。

そんな人に恋をしてはいけない、深みにはまってはいけない。

そう自分に言い聞かせた。


なのに、ダメだなー……。

先生に想いを寄せ続け、もはや他の人と結婚する気もない。

それはそれでいいと思った。

尊敬できる上司の下で、結婚やら妊娠とやらに振り回されず、ずっと働けるっていうのも幸せな生き方だ。



もしかして、そんなどうしようもない片思いをしているからかな。

宗佑をほっとけなかったのは……。


あいつはまだ断ち切れる。

きっと、あの子が断ち切らせてくれると。


そう思ってたのに……。


ことは上手いこと回らないようだ。