「手術の前に、髪の毛を剃らなくてはならないんです。どこまで剃るかちょっとペンで印をつけさせてもらってもいいですか?」
「は、はい」
肩まである、綺麗に染毛した髪の毛。その髪をかき分け、受傷部付近を俺と看護師で覗き込む。
ペンで印をしながら看護師へ伝えた。
「……ここからここまで」
「はい」
「じゃ、あとよろしくお願いします」
病室を出た後、聞こえてきた看護師と患者の話し声。
「髪の毛を剃るのは抵抗がありますよね?」
「あ、美容院に行ったばかりで、染めたばかりだったんですけど……。こればっかりはしょうがないですね」
……予定しているOPEは片側だけだ、髪の毛を大分残せるし、残った髪の毛で剃られた地肌も大分隠せるはず。
こんな風に受傷直後は何ともなくても、時間が経ってから症状が出ることがある。
これは俺が未結に発症するんじゃないかと、危惧しているものと同じケースだった。
それなのに、未結は呑気なもんだった。
キッチンで鼻歌を歌いながら、ハンバーグを作る彼女。
付き合い始めてからというものの、彼女は毎日のように家に来て色々家事をしてくれていた。
卵の殻が入ったオムライスや、違う組み合わせの靴下でたたまれたりと、毎度思うことはあっても、指摘したところで言いそうな言い訳も浮かんでしまう。
わざとやっている訳じゃなく、一生懸命やっていたのは知っていたから目をつぶっていた。
通い妻のようなことをさせてしまっているが、そろそろ同棲したいところ。
次の休みにでも未結の家に行き、付き合い始めたことを報告しようと思っていた。
何より、顔なじみっていうだけあって早々に挨拶に行っとかないと後で何と言われるか……。