どうして先生がいきなり怒り始めたのか分からなかった。
いつも重要な部分を言わない彼。
だけど、ここまで感情を顕著に表出したことはなかった。
今まで一度だって私の体に触れようとしたことはなかったのに、なんで今更……?
しかもこんなやり方で。
後ろを向かされ、私の体に覆いかぶさり服を脱がされる。
暖房のつかない部屋、直接肌に冷気が触れ身震いした。
私はいつしか彼に抱かれることを望むようになったけれど、こんな彼の真意が分からない状態じゃしたくない。
でも、彼が今私をこうやって抱くことを望むなら。
私は彼を受け入れる。
理由なら、彼の気が済んで落ち着いた頃に聞けばいい。
それで彼の気が紛れるのなら。
だけど……
これじゃ先生の顔が見えない。
後ろを向かされ、こんな暗い中じゃ。
先生にされてるかなんて分からない。
ふとこんな時、私を苦しめたあいつの手を思い出した。
……やだ、やだ、助けてくれた先生の手をあいつの手とは錯覚したくないのに。
やっぱりだめだ、後ろからは嫌だ……っ!
先生、先生……!
息が苦しくなってきて、泣きながら先生を呼んだ。
「せ、先生……っ」
「何?」
驚く程冷たい声が返って来てびっくりする。
「……先生の顔が見たいです」
「なんで?」
「……っ」
涙がぼろぼろ零れ落ちた。
大好きなこの人の温かい手を、あいつの手に思えたなんて言えない。
私の要望は聞き入れられず、継続する行為。
容易にシャツを脱がされてしまう。
違う、違う、この手は先生のもの。
あいつの手なんかじゃない。
大丈夫、大丈夫。
そう言って自分に言い聞かせるのに、息がどんどん荒くなる。
はぁ、はぁ……っ。
だめだ、やっぱりどうしても怖い……!
「遼さん……っ!」
初めて名前で呼んだ私に驚いたのか、先生の私を押さえつけていた手が離れた。
その瞬間、振り返って確かめるように彼の顔をじっと見上げると、やがてしがみつくようにぎゅっと抱きしめた。
息が少し整ったところで、泣きながら言った。
「するならちゃんと顔見ながらがいい……っ」
彼の顔を真正面にとらえながら切々と訴える。すると、切羽詰った私の様子に先生の喉が上下するのが見えた。