「それは良かった」

コートをハンガーにかけながら言うと、おもむろに栞が謝り始めた。


「……今まで、すいません。たくさんご迷惑をかけて」

「なんだよ、今更」

「付き合ってる訳でもない私と一緒に寝てくれたり、ここに住まわせてくれたり、それから夜勤だって入ってなかったんでしょう?私を夜1人にさせないように」


付き合っている訳でもないのに、
その言葉が胸に刺さる。



「気付くのが遅くなってすいません。私のせいで先生の仕事に影響を出してしまっていたなんて。でも、もう大丈夫です。だからまた夜勤入れてください。私はもう一人でも大丈夫ですから」


笑ってそう言う彼女は少し逞しくなった気がする。

だけど、寂しいもんだ。


「……俺も、もう用なしってか」

「はい、やっと自立できそうです。これまで本当に先生には甘えっぱなしだったので」


……こんなに簡単に終わりが来るなんて。

彼女が俺を必要としていたのは、あくまでも精神安定剤的な役割に過ぎなかった。

それは重々承知で今まで関わってきたつもりだ。


深みにはまらないように、気を付けていたつもりだったのに

いざ、必要ないと言われると、こんな寂しさを感じるなんて……。




「先生……?」

そう言って不安げに声をかけられる。

栞にそんな顔をさせて、俺は一体今どんな顔をしているんだろうか。

しかし、


「……最後はあっけないもんだな」

「え?最後……?」

「来い」

「ちょっ、先生……!?」


半ば無理矢理彼女を寝室へ連れて行き、激情にかられるままベッドへ押し倒した。

栞は抵抗せず、ただ目の前の俺を見据えている。
てっきり暴れ出すかと思ったのに、そんな彼女を見下ろしながら淡々と告げた。


「……拒まねぇの?最後までするよ?」

「……っ」

俺の言葉に、更に眉尻を下げ不安げな表情になるも、それでもじっと動かない栞。


「はっ、恩返しのつもりとでも思ってんのか」


彼女のこの行動の意味が分からなくて、嘲笑うように言うと慌てて、


「ち、違う……っ!」

と叫ぶように否定した。


これ以上、情けない位苛立ってる自分の顔を見られたくない。
そう思って、栞の小さな体を後ろに向かせて服を脱がし始めた。