2人が去った食堂。

お互い、黙々とただ食べ物を口へ運んでいた。
当然だが、一緒に笑って昼食なんていう雰囲気ではない。

何とも言えない居心地の悪さに、自分から口を開いた。


「まだ何か言いたそうだな」

「……栞を泣かしたら許しませんよ」

「お前が泣かしといてよく言うよ」


嘲笑うように言うと、宗祐は珍しく食って掛かってきた。


「だからですよ、あの子にはもう悲しい思いはして欲しくない。というか、なんで栞なんですか、あなたなら他にいくらでも女いるでしょう?」


俺に女癖の悪いイメージがあって、宗祐が心配するのは分かる。
だけど、人の気も知らずによく言えたもんだ。

本当は、そのすました横っ面に一発殴ってやりたいと思っていた位なのに。


「……いつまでもしつけーな。俺がお前のツラ見る度しばらくイラついてたのもしらねぇで」

「は……?」

「本当に好きな子がいたのに、なんで中途半端に栞と関わった?あの子の気持ちは知ってたんだろ?」


真剣な顔をして言う俺に、宗祐は驚いたかのように目を見開いた。

普段、顔に出さない宗祐があからさまに顔に出すなんて。

しかし、そんなに驚かなくてもいいだろ、俺だって1人の女の子に真剣に想いを寄せることだってあるんだ。


「ま、色々あったんだろうけど。二度目はねぇよ、その子に決めたんならもうふらつくな」


それで分かってくれたのか、宗祐はもう何も言わなかった。








「新しい仕事楽しそうだな」


前職を辞めうちの病院に来てからというものの、栞の調子はすこぶる良かった。

病院から栞と車で帰って来たところ、部屋の電気を点けながらそう言った。


「はい、もう本当に吹っ切れました。これも全部黒瀬先生のおかげです」


明かりの点いた部屋で、はっきり彼女の表情が見える。

こんな穏やかな笑みをこれまでに見ることがあっただろうか。