「分かってますよ」

「そうだな、ほっけがいいな」

視線を斜め上に向けながら言う部長。


「あ、今、日本酒想像したでしょう?」

「君はエスパーか」

そう言って、驚いたかのように私の目を見やる。


「昨日飲んだでしょう?今日は休肝日ですから、日本酒はだめです。ノンアルコールビールにしましょう」

「俺は完全に君に飼い慣らされているな」

「はい、私の躾は厳しいですよ?」


やれやれとため息をつく彼に私は満面の笑みで答えた。









……彼の唇に触れるのは何度目だろうか。

こうして体を重ねるのは初めてではない。


彼と付き合えても、こんな風に抱き合ったりするのはしばらく難しいと思っていたのに。

ふと、何か吹っ切れたかのように、私を受け入れてくれるようになったのだ。


好きな人に抱かれるという、女としての当然の喜び。

なのに、

……幸せが怖いなんて初めて思い知った。


幸せを、喜びを、感じる瞬間。
理津子さんへの罪悪感に苛まれる。

家に来た頃はただ彼をどうにかしようと必死だったから、ここまでの罪の意識はなかった。


けれど幸せを手にしてしまった今、ふと怖くなるのだ。

私はなんて罪深いことをしているんだろう、と。


そして、部長はいつもこんな気持ちを抱えていたんだと思うと、胸が苦しくなった。


私の選択は、本当に正しかったんでしょうか……?

部長はいつか後悔しませんか……?


涙が目尻に溜まって溢れるそうになり、勘付かれないよう人差し指でさっと拭った。

その手を部長に取られる。


「……そんな顔するんじゃない。大丈夫、あいつは君のことを恨んだりしないよ」

「え……?」

「悪かったな、今まで君の不安に気付けなくて」


そのまま溢れた涙に、部長がキスをする。
ぎゅっと抱きしめられ、私もその背中に手を回した。