「はいはい、いちゃつくなら帰ってからにしてくれますかー?」
軽い口調で言うこいつは、外科の黒瀬。その隣には宗祐もいた。
私達に承諾も得ず、一緒のテーブルに着く。
「き、聞こえてたか?」
恐る恐る聞く部長に、黒瀬はけろっとした顔で告げる。
「え?聞こえてないですよ?脳外科部長の体が素敵だなんて」
「聞こえてたんじゃないか……っ!」
はーっと、頭を両手で抱える部長に、私はまぁまぁと横から宥めた。
宗祐はというと私達の関係に薄々気付いていたのか、今更驚くような反応はなかった。
「お前の声が大きいからだぞっ、職場では上司と部下の立場を忘れるなとあれ程言っただろ、場をわきまえた発言をだなって……」
がーっと私よりも大きな声で説教し始める部長を右から左に聞き流し、何食わぬ顔で2人に話しかける。
「ねぇ、栞ちゃんうちの薬局で働き始めてるでしょ。この前ちょうど居合わせてびっくりしたよ」
「あぁ」
「あの子、宗祐のこと好きなんじゃなかったっけ?もう吹っ切れたの?」
「あー……、全然普通に話してますよ」
「ふーん」
ちらっと斜め前に座る黒瀬の表情を盗み見る。
その名前を出したら少しは反応するかと思ったのに、素知らぬ顔で食べ続けていた。
ここで言うのも忍びないが、どうせ出回ってくる話だ。
そう思って話題に出した。
「……ねぇ、黒瀬。栞ちゃんとあんたが一緒に病院来るの見たって、OPE室ナースに聞いたんだけどさ。早速手出したんじゃないかってもっぱらの噂だよ?」
私のその話に驚いたのか、宗祐は食べる手を止めて黒瀬を見つめた。
「くだらない」
はっきりとした答えを出さずに、そう吐き捨てた黒瀬。
「……真面目に答えて下さい。今の話、本当ですか?」
しかし、曖昧にされたくない宗祐は、真剣な表情で聞いた。