「ね?僕の言うことだけ聞いておけばいいんだから、簡単でしょ?」
「……っ」
「あぁ、可愛いね」
最近顔を合わせていないからといって、油断して履いてきてしまったスカート。
ストッキングを脱がせようとスカートの中に安生先生の手が入った。
それに私は、必死にスカートを抑えて抵抗する。
「やだ、やだ、本当にこれ以上は無理です。お願いします、止めてください……っ」
「……薬止めてもいいの?」
私にいつも、とどめを刺す言葉。
どうしてこの手を振りほどけない。
どうして大きな声で助けを呼ばない。
こうやって仕事がとれるんだったら、そう思って今までは彼の行動を甘んじてきた。
しかし、こんなんで仕事取ってどうする。
だから皆に誤解されて煙たがれるんじゃないか。
奴のせいで、私は夜眠れなくなって、
薬を飲むようになって。
止められなくなって、彼に迷惑かけて。
全部こいつのせいじゃないか。
ふざけんなっ。
仕事は他にもある、もっと楽しいとやりがいを感じられるような。
今の仕事を辞めることに負い目を感じず、違う未来を選べる。
もう、こんな屑みたいな医者に従う必要なんてないんだ。
「あぁ、本当に可愛いな。君は僕の操り人形だよ」
「やめてっ、これ以上触らないで!」
「ど、どうしたんだい」
「もう、全部どうでもいいの。これ以上触るようなら本当に大声出すからっ」
溜まっていた鬱憤を吐き出すように、腹の底から声を出した。
すると個室のドアがノックされる。
「安生先生、お疲れ様です。5O5の下北さんなんですがOPE前に内科併診お願いします、カルテに挟んでおきましたので。で、申し訳ないんですけどスケジュールの都合上、急遽明日OPEなんですよねー。至急見て頂けます?」
軽い口調で話すこの声は、さっきまで一緒にいた黒瀬先生のもの。
心底ほっとして、安堵感から更に涙が溢れて来た。