地下の薬局へ向かうのに、エレベーターに乗り込む。

病院の薬剤師っていいな。
これだったら先生が言っていたように、転職を逃げとは捉えずに前向きに考えられる。

希望が見えてきた未来に、1人胸を踊らせていると。


エレベーターが閉じる寸前で、こちらに向かってきた人影に気付いてすかさず開けるボタンを押した。

開いていくエレベーターの扉に、こっちに向かっていた人物が分かると開けるボタンを押してしまったことを後悔。




「栞ちゃん」

「最近病院で見かけないから辞めちゃったのかと思ったよ」

「私のところにも来ないしさ」


私を苦しみ続けてきたこの声。
エレベーターの中にやって来たのは安生先生だった。


久しぶりの対面に、動揺してすぐには反応できなかった。

穏便に何事も起きないように、この場を切り抜けようと笑顔をつくる。



「あの血糖降下薬の新薬あるだろう?ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

「どうしたの、君のところから選んでるんだよ?まさか、私の話が聞けないことないだろう?」




……私は、その言葉に逃げられない。

追い詰められるように言い負かされ、逃げ道のない私は彼に従う他なかった。


2人っきりになれば、何をされるかなんて分かりきっているのに。


早速、外来診察が終わった人気の少ない1F廊下に連れられ、外来脇にあるカンファレンスルームに通された。



テーブルとイスが二つしかない狭い個室。

ここで薬の話なんてする訳がない。


入るなり、中から鍵がかけられテーブルの上に押し倒される。

たまらず悲鳴を上げて抵抗すると、手で口を塞がれた。


「……君にはね、そのお人形みたいな可愛い顔以外に価値はないんだよ。仕事だって頑張ってるつもりだろうけど、皆君が体を使って仕事を取ってると思ってるよ?」

「か、体なんて使ってません……っ」


手がどいた隙に、喚くように言い返す。


「そう言い切れる?いつも触らせてくれるじゃない」

にやっと笑って、気持ち悪い手が太ももを撫でた。


「仕事のためなら、もっとすごいことできるんでしょ?」

「や……っ、やめてください……っ」


スーツのジャケットの中に手を入れられ、Yシャツの上から胸に触れてきた。


やめて、やめて……っ。

涙が頬を伝って行った。
すくうようにそこに口づけられる。

気持ちが悪くて全身に鳥肌がたった。

頬、首筋、最後は胸元、生暖かい感触が触れる中、不意にピリッと痛みが走る。

そこに跡を付けたのだろう。