うんうんと、ただ真摯に聞いてくれるお爺さん達の姿勢が嬉しくてたまらなかった。
こんなに興味深そうに聞いてくれているのに、これだけでいいんだろうか、もっと貧血のことから、いやむしろ赤血球のことから話してあげたら、よりよく薬の必要性が分かるんじゃ……。
「あの、赤血球成分の中心はヘモグロビンというもので、このヘモグロビンとはヘムという赤い色素がグロビンという球状の蛋白質と結合したものです。全身の細胞に酸素を運搬し二酸化炭素を排出する働きがあり、赤血球中のヘモグロビンが不足すると、全身の細胞に酸素が十分に行き渡らなくなり、めまい、ふらつきなどといった貧血症状を……」
肩に力が入って思わず早口になる私、2人の顔を見ると口をぽかんと開けて黒瀬先生と私の顔を交互に見ていた。
それに、たまらず吹き出すように笑いだす先生。
「黒瀬先生よ、この子何言ってんだかさっぱり分かんねぇよ」
「すいません、要は貧血予防のためのお薬ですので。看護師から説明受けていると思いますが、退院後はなるべく鉄分の多いものをゆっくり少しずつ食べてください。それから5年後位に今度は鉄分ではなく、体内のビタミンB12という成分が減って起こる、ビタミンB12欠乏性貧血というものがあります」
「あぁ、聞いたよ、なんでそんな時間を置いて貧血になるんだい」
「ビタミンB12も赤血球を作るために必要なものなんですが、胃切除後は、鉄材と同様に吸収しにくくなってしまうんです。元々、体内の中には5年分程の蓄えがあるののですが、それが減ってきた頃症状が出やすくなってくるんですよ」
「なるほど」
「全部胃を取った訳ではないので、ビタミンB12欠乏性貧血になる確率は30%程度と思っていて下さい。定期的に採血をしてフォローしていく予定ですが、自覚症状が出たら早めに受診してくださいね」
「お嬢さん、若いのにたくさん勉強してるんだね。頑張ってね」
「正直何言ってんだか分かんなかったけれど、私達のために色々説明してくれようとする姿勢が嬉しいよ」
「本当にありがとう」
しわくちゃの手で握手を求められ、思わず涙腺が緩む。
今までは、薬の説明をしても邪険にされるだけだったのに、ありがとうなんて感謝されるなんて。