「今度、うちの病院来るのいつ?」

「えっと、明後日位にまた行くと思いますけど」

「午後少し時間とれる?」


朝、突然そう言われ、一体何だろうと首を傾げる。

病院でこうやって待ち合わせて会うのは初めてだ。

分かりやすい正面玄関の待合室付近で待ち合わせると、先生は少し予定時間より遅れて現れた。

普段着のイメージが強いため、こうやって白衣を着ている姿は新鮮で少しドキっとする。


会うなり、ろくな説明もなく足早に歩きだす先生。


「どこ行くんですか?」

「薬局だよ」

「え?」


連れられるまま、地下へ降りて薬局に向かう。
薬局の重厚な片引き戸を開け顔を覗かせた。


「あ、すいません。ちょっとこの子入職希望してる子で、少し見学させてもらってもいいですか?」

「え?入職希望?」

「嘘も方便ってね。実際見た方が早い」


皆私の顔を見たことあるだろうに、不審に思われたりしないだろうか。

見知った薬局長が出てきて、黒瀬先生と何か談笑した後、二つ返事であっさり許可が出た。


早速、1人の年輩の女性の後をついていくことに。

ずっとあの薬局の中で調剤してるもんだと思ったのに、一体どこに行くんだろう。

早い足取りで、かつかつ歩く女性に少し早歩きでついていく。


「産休入ったり、寿退社で辞めてく人が重なってね。今人少ないのよー、入ってくれたら嬉しいわ」

「あ、あの今からどこに行くんですか?」

「患者さんに薬の説明しに行くのよ、退院処方のね。やってみる?」

「いいんですか?」


そう聞き返した私に、顔をちらっと見られ微笑んだ。


「あなたうちに出入りしているMRさんでしょ?私なんかより詳しそうだわ。大丈夫よ、ちゃんと私も後についてるし」


すると、内服袋をちらっと見た先生が口をはさんだ。


「なんだ外科じゃん、俺が一緒について行くからいいよ」

「あら、黒瀬先生自ら行って下さるの?じゃ、大丈夫ね」


先生の申し出に、嬉しそうに仕事を託していった薬剤師。

いくら医者とはいえ薬剤師とは領分が違う。
本当に先生と私でいいのだろうか。