私は箸を止めて先生の話を聞いた。
「それだったら、職場から逃げるっていう意識がなくなると思うんだよ。てか、そもそもさ今の仕事内容的には満足してるの?」
「先生は忙しいからあまりちゃんと話を聞いてもらえなくて。しょうがないことなんですけれど……。今の仕事にやりがいを感じるのは難しいです」
「だいぶ勉強してたみたいなのに、それじゃもったいないな」
頭の上でハテナマークを浮かべる私。
ぽかんとする私に先生が続けて言った。
「教科書結構ボロボロだっから、6年使っててもこうはならないだろって位さ。
しかも、ちらっと興味本位で見てみたんだけど、どの本も書き込みびっしりしてあったから、よっぽど学生時代頑張ったんだなと思って」
なんだか、そう言われるとこそばゆい。
「そ、それは先生だって」
「いや手抜けるところは抜いてたよ。あまり現場で重要性ないようなこととか、あからさまに興味ない分野とか」
「先生はそういうの器用そうですね」
「お前は、本当に真面目だよな。もう少し気楽に物事考えたらいいのに」
「気楽に?」
「お金のこととか。俺が引っ越しさせたんだから、気にしなくていいのに」
「そ、そんな、私が一緒にいてもらってるんですから。それで養ってもらうなんてできません」
「だから、そんなに気負わなくていいって。俺だってお前を傍に置いておきたいんだから」
……どうしても腑に落ちない。
私たちは結婚を約束した恋人でもなければ、まだ付き合ってさえいない。
大事なところを曖昧にしたまま、どうしてここまでしてくれるんだろう。
一緒に暮らすとなった時、てっきり私の体に触ってくると思った。
私もそれを覚悟で彼と住み始めたのに、彼は私と一緒に寝ても何もして来なかった。
いつも通り私を抱きかかえて寝るだけだった。