「なぁ、仕事ってどうしても辞められないのか?」


おもむろにそう聞いてきた先生。
この期に及んで、辞めたくないと言うのは忍びない。

しかし、正直な気持ちを伝えた。


「できれば辞めたくないと……」

「なんで?ここまで追い詰められても辞められない理由があるのか?」

「理由というか……。父親が昔から転職を繰り返していて、ついに最後は働かなくなったろくでもない人で……。そんな人と血が繋がっていると思うと、自分も辞め癖がついてだらしなくなるんじゃって怖くて」

「いやー、お前に限ってそれはないと思うけどな」

「そ、そうでしょうか?」

「お前をさ俺んちに引っ越させたのは、もちろん薬を飲ませないようにだけど。仕事を辞めさせて、少し休ませたいと思ってたのもあるんだ」

「うち貧乏で大学も奨学金で通ってたから、月々の返済があって。今、辞めるのはどうしても抵抗があります」

「別に休職中肩代わりしてやってもいいけど」


一体何を言い出すんだ、と先生の顔を凝視する。


「それは嫌です……っ、もちろん家賃や光熱費、食費なども半分払いますので」

「それじゃ、ここに引っ越させた意味がなくなるでしょ。ある程度の期間、働かなくてもいいように連れてきたんだし」


怖い位優しくしてくれる先生。

甘やかされるのは苦手だ、自分がだらしなくなりそうで。

……もっと先生から離れられなくなりそうで。


「あの、あまり甘やかさないで下さい」

「あはは、何それ」

「だ、だって」

「今までが自分に厳し過ぎたと思えば?人に頼るってことも覚えなよ」

荷物は少ないだけあって、すぐに片付いた。
テレビを見ながらソファに座って一息つく。夕方のニュース番組で、漁場で魚を裁く様子が映っていた。
それを見ていた先生がふと口を開いた。



「外に食べに出ようか?何が食べたい?」

「えっと、お任せします」

「じゃ、和食でいい?」

「はい」