<side 栞>



ヴーヴーヴー

いつも午後3時を過ぎた頃。
こうやって携帯が鳴る。

これは安生先生の外来が終わった合図。
黒瀬先生に用心するように言われ、こうやって教えてくれるようになったのだ。

そのおかげで最近は病院で出くわすことなく済んでいる。




そして彼のはからいで、私はダンボール5箱と共に彼の家へ引っ越してきた。

家具は元々その賃貸に備え付けられていたものを使っていたとはいえ、少な過ぎる荷物。

しかもそのほほとんどが薬に関する本ばかりだった。



「しっかし色気ないな。20代女の荷物とは思えない。単身赴任のサラリーマンかって」

「う、うるさいな」


ダンボールの封を開け荷物を下ろす私に、その内容を見た先生が言う。


「手伝うよ」


そう言って先生はダンボールに手をかけるが、


「い、いいです、自分でやりますから……っ」


と言ってそのダンボールをぶん取った。

色気がないと言われても見られたくない物ももちろんある訳で。


下着とか、下着とか、そう主に下着とか……

ぶつぶつ言っていると、不意に先生のボソっと声をかけられた。



「……すげぇな、これ何年もの?」


……ーーっ!

ぷらんとくたびれたよれよれのブラジャーが彼の手にぶら下がる。
ベージュ色ってのがまたババくさい。

バッと奪い取り、無神経な奴を睨みつけた。

なんで勝手に開けてるの……っ!

しかも下着が入っているダンボール。


「クローゼットの中に使ってない収納ケースあるからそこ使って、服少ないから入るだろ。本は俺の本棚の空いてるところにでも適当に入れて」

「あ、ありがとうございます」


リビングにある大きな本棚にずらりと外科関連の医学書が並ぶ。
その下の空いているスペースに自分の薬学の本を入れていった。