「それ、何握ってんの?」
ずっと片手を握りしめていることに不審がられ、そう聞かれる。
……あぁ、そうだった。
隠そうにも、先生の視線はその片手に定まっている。
仕方なくおずおずと手を広げると、出てきた合鍵に先生は意地悪くにやっと笑った。
「そんなに手離したくなかったのか?」
「ち、違います……っ、たまたま」
先生の布団を抱きしめて泣いていたのだ、そんな言い訳通用するはずがない。
「いいよ、あげるよ」
顔を真っ赤にして否定していた私にあっさりそう言う先生。
「え?」
「なんで?欲しいんでしょ?今の今まで握りしめてたくせに」
「……っ」
またかぁっと顔が熱くなって反論したくなるも、こればっかりは嘘はつけない。
だって、私と先生を繋ぐすごく大事なものだから。
やっぱり欲しいもの。
こればっかりは素直に、静かにありがとうございますと言って受け取った。
「引っ越しいつにする?今度の土日でもいいけど」
「え?」
「なんで、一緒に住むんだろ?」
「えぇっ!?」
あげるってまた貸してあげるって意味だと思っていたのに……っ。
まさかそんな意味でのあげるだったなんて。
「どうする?嫌?」
確認するかのようにそう聞かれ、私は伏し目がちに首を横に振った。
「じゃ、決まりな」
また半ば強引に、とんとん拍子に物事を進めて行ってしまう彼。
こういう時、どうして不安に思ってしまうのだろう。
こうやって親密になっていけばいく程、また彼に別れを告げられたら今度こそ立ち直れないんじゃないか。
どうしてもネガティブな思考が先行してしまう私の頭の中ではそう思ってしまう。
いつも最悪を想定してしまう。
……だけどだめだ、そんな自分も変えていかなくちゃ。
一緒に住めば、これから素直に想いを伝えられるチャンスだって増えるんだから。
それに……、
「一緒に住んだら、ずっとそばにいられる……?」
「あぁ」
……そう思うと嬉しくてたまらない。
もうそれだけで十分じゃないだろうか。