でも、彼が不意に複雑そうな顔をすることに気付いてしまった。

何事もなかったように躱せればいいのに、喉に何かつっかかったようにどうしてもわだかまりが残る。

本当、そういうのに人一倍過敏な自分が嫌になる。


やっぱり、迷惑……?

こんな面倒くさい女、嫌になったの?


なんで?

だって彼は、私を大切に想ってるって、助けたいって言ってくれた。

それがいきなりどうして……?


私が依存し始めてるのに気付いて、やっぱり重くなったんだろうか。

もう面倒みきれないって。


……そうか、



"彼に何も与えていないじゃない"


いつかウサギが言っていた言葉を思い出す。


そうだいくら大事に想ってくれているとは言え、手も出せない私を囲って彼に何のメリットがある。

そんな無償の愛をひたすら1人の女に向けられるような奴じゃないだろう。


そもそも、彼は本当に私のことを好きなのだろうか。

人をまともに好きになったことのないような、あの人が。


そう、疑い出してしまったらキリがない。




自分から体当たりしていって玉砕した恋は宗佑君が初めてだった。

恋愛に限らず誰かと人間関係を築く時、いつも傷つくのが怖くて自分から壁を作った。

そうやって人に深く踏み込まず、相手からも踏み込ませず、ある一定の距離を保って付き合ってきたのだ。


だけど、私はもう彼に依存し始めてる。

彼は、人が踏み込んでこないよう厚く作った私の壁を、強引に取っ払って一歩二歩踏み込んできたのだ。

人からの優しさになんて慣れていない私はすっかりほだされ、彼を頼るようになった。

そうまでして自分から私に関わってきたのに、どうして今更……、


こうやって裏切られるのが怖くて、人と一線を引いて来たのに。


だから人なんて信用するもんじゃない。

元々、彼は軽薄な人で信用に足る人間じゃなかったのに。


それでもやっぱり信じたいと思ったのは、好きになり始めていたから。

心から彼を必要としていたから。