<side 栞>
うさぎのぬいぐるみ。
突如夢の中に現れたそれは、幼い頃の私の大事な友達だった。
それは昔、貧しかった生活の中で、母親が初めて私にくれた誕生日プレゼントだった。
私は、それを大事にして、寝る時はずっとそのぬいぐるみを抱えて寝た。
私の両親の仲は最悪だった。
父親は日常的に母へひどい言葉を浴びせ、時には暴力さえふるうこともあった。
私の男嫌いは、そんな光景を目の当たりにしていたことが元々の発端だったのかもしれない。
ある日、父親は私からうさぎを取り上げ捨てた。
私の友達同然だった存在。
突然心の支えがなくなった私は、夜なかなか寝付けなくなった。
そんな中うさぎが夢の中に現れてくれるようになって、寝るのが楽しみになった。
そんなうさぎも成長するに連れ、夢に出てくることもなくなったのだけど……。
それが、どうして今頃私を苦しめるようなことを言うのか。
仕事帰りいつものように先生の家へ行っていたら、いつしか先生の方から迎えに来てくれるようになった。
私はそれに甘えて、毎晩のように先生と一緒に寝た。
おかげでよく眠れるようになって、あれから薬も全く飲んでいない。
うさぎも現れなくなった。
仕事はできれば辞めたくない。
私の父親は仕事が続かなく常に転々としていた、どんなに家計が厳しかろうとそのスタイルは変わらなかった。
ついには酒、ギャンブルに憑りつかれ仕事さえもしなくなった。
母親はそんな父親のかわりに、朝から夜まで働いて私を育ててくれた。
薬に逃げたように、今仕事から逃げてしまってはまた辞める癖がつきそうで怖い。
それは私にとって、薬に逃げるよりもとても怖いことだった。
きっと誰に言っても共感してもらえないだろう。
それでも、私はこの小さな居場所を守りたい。
誰に何を言われようと、誰に嫌なことをされようと。