「お前の気を惹きたいだけかと思ったんだけど違うみたいだな。じゃあ、彼女がODするようなきっかけか何かあったのか?」

「あぁ……職場の上司みたいな奴からセクハラされててな。前から我慢してたみたいだけど、それが限界にきて薬を飲むようになったんだ」

「まさか、その仕事まだ続けてるのか?仕事を辞めるか、その上司にセクハラを辞めさせないと解決しないよ」

「それは分かってんだけど」

「なんとかできないのか。まぁその問題が解決したところで、ODしなくなるかって言ったらそうでもないんだけど」

「え?」

「そのことを思い出すことで、薬が欲しくなる発作のような衝動はまた出てくる可能性がある」


一瞬の動揺を勘付かれ、真面目な顔で諭される。


「その子と付き合っていくのは大変だぞ、とてもじゃないけどお前が付き合っていけるような子じゃないと思うけどな」




……それはうっすら思っていたことだった。


俺は彼女に簡単に手を差し伸べてしまった。

だけど、彼女の闇はそんな単純なものではなかった。

俺みたいな適当な人間が気安く踏み入れてはいけない問題だった。


この前のような発作を起こしたら俺は毎回支えていけるのか。

その度に、大丈夫、大丈夫、と彼女を抱きしめるのか。

正直、好意はあれど、そこまでの覚悟なんてない。


きっと、そんな彼女に付き合いきれず嫌気がさすんじゃないか。

元々、俺は気の長い方じゃないし深く1人の女の子と付き合ったことなんてない。

そんな軽薄な俺がずっと彼女のそばにいて支えていけるだろうか。



そう思い悩んでいると、外から男の罵声が聞こえてきた。

ナースコールがけたたましく鳴って、バタバタと駆け寄っていく複数の足音がする。

当然、谷垣がぶら下げているピッチにも連絡が入った。



「悪いな、急患が入ったみたいだ。その子、うちに連れておいでよ、その子がお前に依存しきってしまう前に手を切った方がいい」


そう言い残して、慌ただしく部屋から飛び出して行った。