学生時代、こいつが精神科を専攻したいって言ってた頃。
理由を聞いたら、適当に話を聞いて適当に薬を処方するだけでいい、しかも他科に比べたら責任も少ない。
こんな楽な科があるかと。
そしてさっさと開業してボロ儲けするんだと、そう言っていたのに。
「なんだちゃんと働いてんじゃん」
こいつとこの個室へ来るまで色んな患者に声をかけられた。
なかなか心を開いてくれなさそうなのに、それでも慕われているこいつに驚く。
「失礼な奴だなー。その言葉、そっくりそのままお前に返すよ」
「だってお前が精神科選んだ時の動機ひどいもんだったろ」
「まぁな、適当にやれるかと思ったんだけど。本当面倒な科だよ、どう治療すればいいかの前に毎回どう接しようか、どう関わろうかで悩む」
そう言って参ったように微笑む目の前の奴は、あの投げやりだった学生時代からは到底想像もつかない。
適当に話をして、とい言っていたのにしっかり1人1人の患者と向き合っているようだ。
「で、どうしたの?」
「ODってさ、辞められないのか?」
「何、今度の彼女病んでんの?」
「彼女じゃないけどな」
「へぇ、お前が相談しにくる位なら、さぞかしその子可愛いんだろうな」
にやっと笑われ、茶化されてるのかとむっとする。
「まぁ、可愛いけど。それ関係あるのか」
「あるよ、外来してるとさ若い女の子がよく来るんだよ。ま、そういう子はほとんど性格に難があるんだけど。その子はどんな子?」
「性格はきつい方だろうけど、難があるとは思ったことはないな」
「すぐに癇癪を起こすとか泣いて暴れるとかは?」
「はっきりものを言う子だけど短気ではないと思うし、泣いて暴れるなんていうのもまずない」
「じゃ、君に強く依存してたりしてない?」
「依存?まぁ多少は。でも元々気が強いからそうあからさまじゃないけど」
「ふーん」
あてが外れたようで、谷垣は難しい顔をして少し考えこんだ。
質問内容から、一種のパーソナリティ障害を疑っていたようだ。