ここまで好き勝手言って、殴られてもしょうがない。

温厚な先生でも、今ではそれだけの気を纏っていた。

でもそれも覚悟の上。


しかし、変わりに来たのは予想外の感触。


次の瞬間、冷たいキスをされた。

そのあまりにも感情のない冷酷な口づけに、思わず茫然としてしまう。



「……俺は君を傷つけることも厭わない、そんな男だよ。これ以上するかい?」


彼は、そう言って私のパーカーの裾をめくる。


しかし、それ以上する気がないのは分かっていた。

こうでもすれば私が少しでも狼狽えると思ったのなら浅はか過ぎる。


それに目が覚めたかのように、私は覚悟を決めた。



「……上等です」


寝間着のパーカーとインナーを自ら脱ぎ棄て、部長を畳の上へ押し倒しその胴体に跨った。

畳に手をつき先生の暗い目を見下ろすと、思い切り睨む。


「いい眺めだな、こんなべっぴんさんに押し倒されるなんて」


余裕綽々に私を見つめる。

こうやって威嚇しながらも本当は心の隅で怖気づいている私の心情を見透かすように。

寒さとは別の理由で震える体を奮わせ、行動を起こそうにもどうしていいか分からない。



私は、先生と一緒になれなくてもいい。私を好きになって欲しい訳でもない。

ただ、私が願うのは一つだけ……


ちゃんと、生きて欲しい。


情けないことに、ぼとぼとと大粒の涙が先生の胸元に滲んでいった。

涙をすくうように部長の指が頬を滑る。


「……やれやれ、慣れないことするもんじゃないよ、せっかく綺麗な体なんだからこんなことに使うんじゃない。なんだって、君はそこまでするんだ」


部長は困ったような顔をしながら、うっすら微笑みを浮かべている。


「あなたがちゃんと生きようとしてくれるのなら、何だってやりますよ……っ」