「今日飲みに行かない?」

「……はい、是非ご一緒させてください」

栞が下心丸出しの内科の部長に誘われているところへ、ちょうど居合わせてしまったのだ。

MRは医者を相手に営業しているだけに、医者の言うことは絶対であり誘いを断るなんてまずできない。

俺はその時見なかったことにして立ち去ろうとした。

だけど、その背丈や色白なとこ、そしてどことなくあどけなさが残るところがなんとなく未結を彷彿とさせて、思わず立ち止まって口出ししてしまったのが全ての始まり。


「安生先生、さっき外来に先生にかかりつけの患者さん来てましたよ」

そう言ってデマを流すし、安生先生を外来へと追い払ってやった。

あとから見間違えたとでも言えばなんとでもなる。
まぁ、安生先生からの心象は悪くなるかもしれないが。

彼女に視線を落とすとさっきの微笑みは消え、俺を見上げて睨みつけてきた。


「……あの、助けたつもりでいるんでしょうけど、こういうのなんていうか知ってます?」

一拍間をあけて、強調して言った。

「余計なおせっかい」

助けたつもりだったのが、かえって彼女の逆鱗に触れてしまったようだ。

「ノルマ達成させるために、こっちも必死なの。2度と仕事の邪魔しないで」

そう言ってかつかつとハイヒールを鳴らせながら去って行く。


何も言えず呆気にとられていると、背後から外科の黒瀬先生に声をかけられた。


「ずいぶん強気な子だなー」

「そうですね、びっくりしました。良かれと思って助けたんですが」

「何、お前ああいうのがタイプな訳?」

「いや、全然」

ただ、咄嗟に口を挟んでしまっただけ。普段の俺だったらありえない行動だった。