<side 高城>
「高城部長、少し休んだらどうですか?」
OPE後、病棟の師長から心配そうに声をかけられた。
「大丈夫だって」
「でも、先生が倒れられたら、それこそうちの脳外科破綻しますよ」
「そうだな、死んでは元も子もないからな」
しんみり遠いところを見ながらそう言うと、すかさず師長から声色を変えず「そこまで言ってません」と返される。
「過労死なんて本望じゃないか」
「だから、」
「身を犠牲にしてまでも患者を救い続けたなんて、医者の鑑として崇め奉られるだろう。そしたら、お前ら労働基準法で病院に少しは勤務条件楽にしろって訴えられるぞ」
そう言って後ろを振り向くと、そこにさっきまで一緒にOPEをしていた桐山の姿はなく、変わりに無表情の藤沢が俺の後ろに立っていた。
厄介な奴が現れたと、逃げるように病棟を後にすると、つかつかとそれにしっかりついてくる奴。
「いいですか、部長。部長が死ぬのは過労死でもなんでもありません、ただの酒を飲み過ぎた男の自殺です。勝手に美化しないで下さい」
「な、なんだ、病棟に用事があったんじゃないのか」
あの告白以来、俺はこいつから逃げ惑うようになっていた。
と言うのも、あれから毎日のように俺の家に押し入っては、酒を捨て風呂を沸かし料理をつくりと、好き放題俺の世話をしてくれちゃっているのだ。
「ありましたよ、部長を探していたんです」
「なんだ」
「水曜日の脳外外来ですけど、外部の先生から来てもらうことになったので、毎週水曜は先生休みにしてくれるそうです」
「はぁ?そんなこと誰が決めたんだよっ」
「院長と私です。私の大学時代のツテを辿って信用ある方に来てもらうことになったので、先生の現状も話してお休みにしてもらうことになりました」
もう決定事項です。
そう言ってにっこり笑う彼女に、もう何も言い返せない。