「ほら出せ、馬鹿っ」

必死になって説得するも、彼女の耳には入らない。
そうこうしている間にも薬は溶け始めている。

早く掻き出さないと、焦りばかり募って彼女の顔を揺らす。

しかし次の瞬間、のどをさらけ出して上下にこくんと飲み込むような動きに、咄嗟に彼女を押し倒して噛みつくようなキスをした。
しかし情緒も色気のかけらもないキス、それでも驚いたのか少し開いた彼女の口を逃さず、薬を掻き出した。

そのまま苦い薬をティッシュに吐き出す。


「な、なんで、なんでこんなことするの……っ」

俺の行動に驚いたのか、慌てて責めるような口ぶりで言った。
静かに泣きながら、俺の胸元をきゅっと握ってしがみついてくる。


「助けたいからに決まってるだろっ」

そんな彼女の細い両腕を掴んで自分から引き離すと、彼女の瞳を見つめながらそう言った。
その揺れる彼女の瞳から、やがて大粒の涙が真っ赤になった頬へ零れ落ちる。

「お前は何のために俺のとこに来たんだよ、近くにいるんだから、薬飲みたくなったら頼れよ。今更遠慮なんかするなっ」

泣きじゃくりながら、ぼそっと一言呟いた。

「……もっと、冷たい人かと思ってたのに」

「あぁ?」


体張って助けてやった人間によくそんなこと言えたもんだ。
幸い、栞の体内に薬はほとんど回っていなかったようで、しっかりとした足取りで2人で洗面所へ向かった。

そこで一緒に口をゆすぐ。
洗面所の鏡を見て、栞が呟いた。


「……すごい顔」

泣き腫らした顔にびっくりしているんだろう。

「本当、そんな顔させたくて一緒に寝てるんじゃないんだけどな」

厭味ったらしく言ったつもりだったのに、栞は驚いたような顔で俺を見た。