「どうした?」
「ごめん、仕事でちょうど来てたから。今日よかったらご飯でもと思って」
「あぁ、早くあがれるようにするよ」
「本当?良かったー。じゃ、仕事終わったら連絡するね」
ほっとしたような表情を浮かべ、要件だけ伝えて足早に去ろうとする彼女。
じゃ、と言って俺に背を向ける。久しぶりに会ったその背中はまた小さくなった気がした。
「……栞、大丈夫か?」
その背に声をかけると、振り返って無理矢理作ったような笑顔を向ける。
「ありがとう、大丈夫」
そう言うものの、全然大丈夫そうじゃない。
藤沢は彼女なんて茶化したが、俺と栞はそんな甘い関係とは程遠い。
栞とはこの病院で知り合った。
もうかれこれ、出会って1年はたつだろうか。
よくMRが医局で出待ちをするのだが、世間一般的に美人と呼ばれる女性がいることが多かった。
狙いは各科の部長と薬局長目当て。
その見慣れた光景の中、その中でも栞は群を抜いて綺麗だと評判だった。
表情が乏しいことと華奢なこともあって、陰ではお人形さんと呼ばれていた。
……懐かしいな。
今では少し表情も和らいできたけど、昔は愛想笑いさえしなかった。
無表情で、ただひたすら医者を待っているだけ。
目当ての部長が現れれば、人が変わったかのように食いついていった。
だけど彼女がどれだけ熱心に薬の説明をしても、部長のオヤジ共が見ているのはその綺麗な顔だけ。
その顔が1番の武器でもあったが、それが仇ともなってしまった。
そう、あれは今から1年前のこと。