<side 栞>
あの宗佑君に別れを告げられ、運悪く安生先生と鉢合わせしたあの日。
私は結局、彼が指定したホテルには行かなかった。
というか行けなかった。
薬を飲んでいるうちに意識が朦朧として、気付いたら病院に運ばれていたのだった。
携帯を見ると安生先生から電話やメールが何件も着ていた。
それを見て急いで、お詫びのメールを送る。
『昨日は、すいませんでした』
えっと……。
『残業が長引いてしまい……』
必死に行けなかった理由を考えてメールを打つ。
えっと、そして、
………っ。
スマホの画面に雫が落ちた。
それは私の目から零れ落ちたもの。
私、馬鹿みたい。
今になって必死になって、情けないったら。
おかしいの。
こんなに泣く位だったら、薬なんて飲まずにホテルに行けば良かったじゃない。
別に、仕事のためだと思えば割り切れたでしょ……?
……嘘、本当に、割り切れた?
あんなに薬を飲む程、思い悩んでいたんだよ?
できる訳ないじゃない。
そこまで身を切り売りできる程、プライド捨てた訳じゃないよ。
私もう、どうしたらいいの……?
自分でも自分の行動がおかしくて泣きながら笑った。
私は仕事と自分の体どっちが大事なんだろう……、と。
こうやって悩んだ時、宗佑君が私の支えだった。
もちろん、今もまだ私と安生先生に繋がりがあるなんて彼は知らない。
それでもやってこれた。
彼の声を聞けば、一目顔を見れば、嫌なこと全て吹き飛ぶようだった。
だけど、それももう今じゃ叶わない。
1人で立ち向かわなければ。