「佐波」


洗面所から出たところで、ゼンさんが私の話を遮った。
振り向いたゼンさんに、後ろにくっついていた私ははたと止まる。

間近にあるゼンさんの顔。
カッコいいなぁ、相変わらず。


「なんですか?ゼンさん」


ゼンさんが何も言わず、私を抱き締めた。
ちょっとびっくりするくらい、勢いよく引き寄せられ、彼の腕の中へ。

私は軽く混乱して、思考をめぐらせる。

え?
いきなりハグですか?
脈絡なく抱き締めて、トゥナイト……あ、ドラマのタイトルとしてはダメだわ。センスないわ。

私、もしかして突然フェロモンが出る体質になったのかな。
そのフェロモンにゼンさんやられちゃった?

今日もめっちゃ主婦臭漂う、とれかけメイクにひっつめお団子ですけど。
いいんスか?ゼンさん。
そんな私にムラっときちゃうくらい、欲求不満だったとか?


「おまえが元気に、みなみの成長記録を教えてくれるのは嬉しいんだがな……」


ゼンさんが、私の髪に顔を埋めながら言った。