彼女は純誠くんの手を離し、立ち上がった。


「パワーをもらえました。急にすみませんでした」


にっこり屈託なく笑う彼女には、『パワーをもらいたくなる』ほど切ない日があるのかもしれない。

今度は美保子さんが彼女の手に触れた。親愛の情がこめられていることは傍で見ていて痛いほどわかる。


「いいえ、いいんです。いいんですよ」


美保子さんには、きっと言いたいことがたくさんあったのだと思う。

流産と不妊治療を乗り越えて、純誠くんを産んだ美保子さん。
目の前の女性は自分の分身みたいに見えたかもしれない。

だけど、聡明な美保子さんはそれ以上言えなかった。

妊娠出産に『絶対』はないから。

自分がうまくいったように彼女がうまくいくとは限らないから。
ぬか喜びさせるようなことは言えない。言ってはいけない。

応援することしかできない。
祈ることしかできない。