「あの、ちょっと赤ちゃんと握手してもいいですか?」


こんな申し出をされた。
一転、警戒心がむくむくと湧いてくる。
こうやって善意を装って近付き、赤ちゃんを害する人間がいることはニュースにもなっている。

しかし、警戒する一方で、目の前の彼女のキラキラした目に悪意を見つけられない。
私が悩んでいるうちに、美保子さんが穏やかに答えた。


「ええ、どうぞ」


美保子さんが何も考えずに答えるはずがない。
彼女も考えただろう。
だけど、私より判断が早かっただけだ。


「わ!ありがとうございます!」


慌ててバッグから除菌ウェットティッシュを取り出す彼女に、美保子さんが言う。


「わざわざ拭かなくて大丈夫ですよ。今、そこの病院のスタジオで運動してきたんです。この子たち、床をごろごろしてましたから」