不意に、ゼンさんはポケットからスマホを取り出す。
長いバイブ音が私にも聞こえる。
着信のようだ。


「もしもし?」


ゼンさんが耳にスマホを当てる。


「は?鯛?……いや、ちょうどナイけど。は?」


ゼンさんの訝しげな顔。
相手は誰だろう。


「え?獲ったって何を?鯛?はぁ!?」


はてなマーク多いっすよ。


「わかったよ、じゃ、それで頼みます。はいはい、気をつけろよ。あんまり飛ばさなくても間に合うからな」


慇懃無礼な会話を終え、ゼンさんは通話を切った。


「なに?鯛とか何とか聞こえたけど」


「社長だよ。あのジジイ、朝から静岡まで鯛を釣りに行ってたらしい」


「はぁっ!?それって、もしやみなみのために?」