痛っ!

朝起きたら背中が痛くて動けない。

あの人のせいだ…

そう。昨日の夜、確か、洗面所で…


『愛!!!ここに洗濯物置かないでって言ったでしょう??』

(やばい。またやられる…)
『ごめんなさい!もうしないので許してください。』

バシン!!!!!

『痛っ……』

『次やったら許さないからね!!!』

『母さん、もうやめて。近所迷惑だからさ。』

『そうかしら。愛ったらだらしないんだもの。しつけよ!しつけ!』


何故か弟だけは愛されてる。
なんであたしは愛してくれないんだろう。
唯一信用できるお父さんは単身赴任でここには帰ってこないし。

こうしてまたひとつアザが増えていくあたしの体。

学校行かなくちゃ。

ご飯を食べずに家を出る。午前6:00。
『おはよー。』

『愛!相変わらず早いね〜!』

『朝からダジャレですか〜?』

『ばれた??愛ったら朝から鋭い!!』

こんなちっこい犬みたいな可愛い子があたしの親友、知春。親友って言う割りには何にもあたしのこと知らないんだけどね。

だってあたしは嘘つきなんだもの。

誰にも家の事情は話さない。
今までなんとか上手くやってきてる。

最低だけど自分を守るので今は精一杯。

ガラガラ。

『おはよう。今日も頑張るぞ〜』
あたしの担任、山田。
いっつも張り切ってる(笑)

この調子のまま、朝学活が終わって…

授業も時間が経つごとに終わってく。
家を出てからは気楽でなぜか学校にいる時間がとてもとても短く感じる。

ガチャ。帰ってきちゃった。よかった、家には誰もいない。
お母さんは夜のお仕事だろうか。

塾に行く支度しないと。

塾はあたしの家から3分で着くから楽勝なんだけどテストとかあるから学校の後すぐ塾って結構大変。

どこの高校生もそうだろけど。

よし。準備できた。塾行こう。

ガチャ。

『行ってきます。』
小声でそう言って家を出た。
『こんにちはー。』

『おー、愛!こんにちは。テスト勉強した?』

『はい…一応…英語は完璧です!』

『前から得意だもんね〜。数学も頑張ってよ〜!あ!そうそう。今日新しい英語の先生来るから期待しときな!』

『ほんとですか?あたし、正直言って今のあの先生苦手なんですよ。期待しときます〜!』

『まあ、否定はしないけど…じゃ、テスト頑張ってね!』

数学担当の伊藤先生はいい人だと話していていつも思う。
ヤンキーっぽいけど(笑)ぽいじゃなくて元ヤンかもな(笑)

なんて思いながらいつもの教室に入る。

『愛!今日英語の先生変わるってね!うちめっちゃ嬉しいんだけど!』
お姉さんキャラでスタイルのいい美咲が言う。

『あたしも嬉しいかも。伊藤先生が期待しとけって言ってたけどどういうことなんだろー。』

『可愛いとかかっこいいとかじゃない?もー早く授業始まらないかなー!』

『あたしもいつも以上に楽しみ!』

わくわくしながら先生と授業が始まるのを待つ。

『じゃあ相原先生はこっちの教室ね。なんかあったらすぐ言ってね。』

『はい。お願いします。』
多分、新しい先生と伊藤先生の声だ。
女の人みたい。

どきどき。

少し胸がざわざわした。
なんか少し緊張する。

『ねぇ愛、女の先生だね。どんな人なんだろ!』

『ねー、なんかあたしまで緊張してちゃったよー。』

コツコツコツ。
足音がする。


『はじめまして。これから英語を担当させてもらう相原です。よろしくね!』

うわー。笑顔がきらきらしてて眩しいや。
可愛いすぎる。
こんな可愛い人が塾の講師だなんて勿体無いくらい。

『先生〜!下の名前はなんて言うんですか?』
誰かが言った。

『忘れてた〜!珍しいと思うんだけど聖奈って言います!せいなじゃないよ!せなだからね!』

『先生可愛いね。伊藤先生の言ってた通りだ。』小声で美咲が話しかけてきた。

『うん。前よりずっとマシ!』
あたしも小声で言う。

よく耳を澄ましてみればそこらへんの男子も可愛いとかタイプだとか言っている。
だからあたしは男子が苦手なんだよな。



順調に授業は進んでいって下校の時間になった。

『気をつけー、礼っ!』

最後の挨拶が終わった途端にみんな帰っていく。

『はあ。』

あたしはため息をついた。
明日は土曜日なのにそれが苦痛でしかない。
帰りたくないなあ。

『じゃあねー、愛!また月曜日!!』

『ばいばい、美咲!』

よし。帰ってすぐお風呂入って寝よう。
何もありませんように。

『ただいま……』

うわ、、お母さんったら酔いつぶれてる…
毛布でもかけてあげよう。

そっと毛布をかけた。

そのとき、

『なんなのよ!あんたはいつもいつも!!うざったいの。早く消えて頂戴。』

ゴンッ!!
野球のバットで殴られた。
って言っても子供用のものだけど、相当痛い。

しかも頭からは血が出ている。

涙目になりながら私は2階に上がって家を出る準備を始めた。





お財布とー、服と、充電器と、あれ用のやつも入れとくか…

ポタポタと出てくる血を赤いハンカチで押さえながら支度をする。

なんで今日に限って弟はバイトなんだろう。弟がいたらきっと止めてくれていたのに。

でも明日が休日でよかったと少し安心した。学校ないから家に帰らなくてもどうにかなる。

さ、出るか。

お母さんはまた寝ていた。

血のついたバットを持ったまま。


自分の頭を触るとものすごく痛いけど血は止まっていた。

そしてフードをかぶってあたしは家を出た。

どこに行こうか。

知春の家?

美咲の家?

それとも公園で野宿?

どうしよう。

どうにかなるとは思っていたけど財布に入っているお金は2000円しかなかった。

きっとお母さんに取られたんだ。

ため息をついて塾の近くにあるアパートの前の塀に座った。

ここで一晩過ごそう。

時計を見ると12:35でもう誰も人は通っていなかった。