私には関係のないことか。

思考を止めて、ポケットから煙草とライターを取り出して口にくわえる。
初めはむせたそれも随分体になじんできて、何も考えなくても火を付けられるようになった。

「未成年者の喫煙は法律で禁止されておりま~す」

白い煙を吐き出した私のすぐ後ろで間の抜けた男の声がした。
あっと思う間もなく、吸いかけのタバコが取り上げられる。

「喉に悪いよ?肺にもね。これ以上国に貢献すんなって」

そういってギターを後ろに担いだそいつは、私のタバコを踏み消した。
律儀に吸い殻をゴミ箱に捨てに行く。
それを見ながら私は新しいタバコに火をつけた。

「って、人の話しを聞けって!!」

新しいタバコは、煙が私の肺に届くより速く取り上げられた。
しかもケースごとライターまで没収。

「あんた、何様?」

「俺?樫井(かしい)。樫井(かしい)湊(みなと)」

「別に名前聞いたんじゃないんだけど」

これみよがしにため息をついたのに、やつは無邪気な顔をして笑った。変なやつだ。

「あれ?もう帰るの?」

「どこで何しようと私の勝手でしょ?」

そう言い捨てて背中を向ける私。
せっかく無関心に浸っていたのに興がそがれたな、なんてため息を吐いてさっさと歩き始める私に。

「ねぇ!」

と、耳障りのいい声が届く。

「明日も聞きに来てよ」

振り返って、別にあんたの歌を聴きに来ていたわけじゃないと思いっきり悪態をついてやるつもりだった。
だけど振り返って目が合ったそいつがあまりに無邪気な笑顔をしていたものだから、私はすっかり毒気を抜かれてしまう。
せめてもの抵抗にこれ見よがしにため息をついて、一言気が向いたらと小さくつぶやく。

「また明日ね!」

行くと約束したわけではないのに、奴は心底嬉しそうにまた明日とこっちが恥ずかしくなるくらい大きな声と大袈裟な動作で私を見送った。