「大抵の事には手をだしたんだろ?」

なおも彼は私に語りかける。

左右のバランスを崩したくて、ピアスを開けた。

体を壊したくて、酒とタバコに手を出した。

ナメられたくなくて、髪の色を変えてみた。

家も学校も苦痛でしかなくて、居場所を求めて、深夜徘徊を繰り返した。

でも、どれも楽しかったわけじゃない。
それどころか手を出せば出すほどにどんどん苦しくなっていった。
それでもやめられなかった。

「さぁ、楽しいことをしようか?」

差し出される大きな手が私を誘惑する。

「私は…」

「中途半端は、もうやめれば?」

中途半端。

そんなの私が一番よく知っている。

「……いくらかなんて、無理だよ。この身体には価値、ないんだもん」

唇をかみしめて、私は事実を述べた。
もうこの身体には何の価値もない。

ただ苦しい。

息が、できない。

「じゃあタダで。ほら行くぞ」

反論する気も起きなかった。
それだけの気力も私の中に残っていなかった。
私の中にあった全ては彼に吸いつくされた気がした。

流れに任せて、堕ちていくのも悪くないかもしれないと思った。
今更底が見えない暗闇の上に立っているんだと気付いて、目眩がした。