うとうとうとうと現実と夢を行き来している間に夜になった。
いつもみたいに夢見はあまりよくなくて、熟睡できなかったけれど夕方には完全に目が覚めていたので適当に身支度を済ませ家を抜け出して昨日と同じ駅前に行く。

「気が向いただけだから」

そんな誰に向けた言い訳なのか分からない言葉とともにそっぽを向いた私に、

「うん、ありがとっ」

そう言った彼はにこっと笑って大きな声で歌い始めた。
普段音楽なんて聞かない私は彼の歌唱力がいかほどのものなのか、つまり上手いのかそうでないのか、さっぱり分からない。
分からなかったけど、彼の言葉が巧く私の中に届く。
ただ純粋に、ありきたりな歌詞が、好きだと思えた。好きだなんて感情、久しぶりに湧いた。
それぐらい、私は弱っていたのかも知れない。

「あれ、今日はもう店じまい?」

「高校生って夜10時を過ぎると補導されるって知ってるか?」

「そんなのお互い様じゃん」

10時なんてとっくに回っている。何も今更気にしなくても、ここに補導員が来たことはない。

「って、やっぱり高校生か。なら行くぞ」

「はっ?」

「ぼちぼち見回りの時間。今日のこの時間、この地区が補導対象になる事位この辺の奴なら常識」

そう言われれば、いつもは制服でたむろしている人達がいない。そうぼんやり考えていたら、いきなり腕を掴まれた。