その日の夜。

彼からの着信。


憂鬱な気分になった。


これ以上、なんの話があるというのだろう。

私は、お腹を擦りながら電話に出た。


「もしもし…」


「ちな?赤ちゃん、産んでよ。一緒に頑張ろう」

「……。」

答えが見つからなかった。

涙が溢れる。


嬉しくて泣いたんじゃない。


なんで、あの時、皆の前で言ってくれなかったの?

喉まで出かけた言葉を飲み込み、私は返事をしないまま電話を切った。


その後、彼からメールがきた。

産まないなら、手術代は出さない、と。


私は声を上げて泣いた。


もう自分だけでは判断がつかなかった。

どうしたいのか、どうしていきたいのか。

一番大切な自分の気持ちがわからなかった。


私の泣き声が母に届いたらしく、母はかけつけてくる。


理由を話した。


「ちょっと、彼と電話させて。」

そう言って、私の携帯で彼に電話をかける母。


涙で歪んた視界だったけど、その姿が勇ましく思えた。


「もしもし?ちなの母ですが…。こんばんは。今ちなから話を聞いたわ。あなた、ふざけてるの?自分が何を言ったかわかってるの?あんまり女をナメないで頂戴。あなた、今日の話し合いで、何も言わなかったわよね?それがどうゆう事なのか、自分自身でしっかりと考えなさい。子供が出来たのは二人の責任よ。だけどね。堕ろすってなったら傷付くのは女のほうなのよ。身体も心も。男にはなにが出来るの?たった10万ぽっちを用意することなのよ。ちなは、今回中絶して痛みを知ると思うわ。中絶することが、どうゆう事なのか。どんな危険があるのか。しっかり考えなさい。」


彼の声は聞こえなかった。

母の言った言葉が、心にチクっときた。


と、同時にかっこいいなと思った。

私も、将来こんな母親になれたらな、と。