「今年は節目の年であり、明日はトンネルの入り口に献花台が設けられ、黙祷が捧げられたのち、点検作業が行われる予定です」

 画面では、空撮映像が流れている。
 辺りを緑に囲まれた中に走る一本の道。それは高速道路で、詩のよく知っている道だった。

 映像が切り替わり、15年前当時の様子が流れ始める。
 フィルムの所為か、年代を感じさせる荒い映像は、濛々と黒煙を吐き出すトンネルの入り口を映し出していた。

「トンネル内で発生した玉突き事故で、車両が炎上している模様です! ガソリンに引火したものとみられます! えー、現在、消防が消火活動を行おうとしておりますが、ご覧の通り物凄い煙が充満し……」

 リポーターの男性が、煤で汚れた顔を隠すこともなく興奮気味に実況している。

 消火活動が遅れた理由は、煙の所為だけではない。
 炎上した車両が時折爆発を起こしていたので、迂闊に近づけなかったからだ。

「事故の原因は大型トラックによるものだという事ですが、大型トラックの運転手や巻き込まれた方々の安否など、詳しい状況は解っておりません!」

 原因は、大型トラックの飲酒運転による前方不注視。
 巻き込まれた台数は10台で、死者6名。重傷者9名。その他、軽症者も合わせると計35名が傷を負った。

 大型トラックの運転手は奇跡的に難を逃れ、その場から一番に逃げ出している。


 ――私は、知ってる。

 その事故のことを、私は。

 
 自分の意思とは無関係に震えだす両手を、詩は必死に押さえつけた。
 胸が苦しくなり、呼吸が浅くなっていく。

 見たくないはずの映像から、どうしてか視線を離すことが出来ない。

 頭の中で、あの声が幾重にも重なってこだましているように思えた。


 熱い、苦しい。
 誰か、誰か。
 苦しい、たすけて――


「もうやめてよッ!!」

 気が付くと、椅子を倒して立ち上がっていた。
 無意識のうちに発した声は思いの外大きかったらしく、待合室に居合わせていた教習生達の視線が詩に集まっている。

 何か変な物でも見るような訝しげな視線が居たたまれない。

「す……すみません何でもないですッ!」

 カバンと教本を勢い任せにひったくり、詩はバタバタと逃げるように待合室を後にした。