遊郭の夜が始まる。
 今日は張り店も大盛況だ。
 遊女が鈴なりに、格子に貼り付いている。

 いつものように張り店の最奥で、菫菜は客を見ることもせず、ぼんやりとしていた。

---あ〜あ、こう必死になって客引きするなんざ、その辺の夜鷹と変わんないじゃないか---

 だったら夜鷹のほうが自由でいいのではないか、などと考えていると、遣り手がそろ、と菫菜に近寄ってきた。

「新三郎様だよ」

「……は?」

 心底驚いた顔で遣り手を見た後、菫菜は急いで立ち上がり、店先へ出た。
 確かにそこに立っているのは新三郎だ。

「ささ、菫菜」

 いそいそと新三郎を促す遣り手に背を押され、とりあえず菫菜は、すでに前を行く新三郎の後を追った。
 が、部屋の前で彼を押し留める。

「今日は来たら駄目だって、前にお願いしておいたでしょう?」

 咎めるように言う菫菜に、新三郎は、きょとんとした顔を向けた。

「うん。でも、来月も来ればいい話だろう?」

 軽く言い、襖を引き開ける。
 そしてとっとと中へ入った。