「今宵来て貰えば、必ず一月後に会えますよ」
「だから嫌なんです」
鈴掛の言葉を、菫菜はあらぬ方向を見たまま遮った。
「新三郎様は浪人です。今宵来れば、一月後も必ず来なけりゃなりません。浪人に、そんな金があろうはずありません。そんな負担は、かけたくありません」
遊郭では、十五夜の月見を廓で楽しんだ客は、一月後の十三夜にも、必ず同じ遊女のところで月見をせねばならない。
どちらかしか来ない客は、片月見といって嫌われるのだ。
故に十五夜は、遊女が躍起になって客を取ろうと頑張るというわけだ。
「ほんっと、あんたは運がない……」
頬に手を当てて、小手毬は、はあぁ、とことさら大きくため息をつく。
---運ね……---
運に頼って生きて行けるほど、この世は甘くない。
特にこのような苦界であればなおのこと。
その上その僅かな運も、散茶女郎には初めからないも同然だ。
心の中で嗤い、菫菜は鈴掛の部屋を後にした。
「だから嫌なんです」
鈴掛の言葉を、菫菜はあらぬ方向を見たまま遮った。
「新三郎様は浪人です。今宵来れば、一月後も必ず来なけりゃなりません。浪人に、そんな金があろうはずありません。そんな負担は、かけたくありません」
遊郭では、十五夜の月見を廓で楽しんだ客は、一月後の十三夜にも、必ず同じ遊女のところで月見をせねばならない。
どちらかしか来ない客は、片月見といって嫌われるのだ。
故に十五夜は、遊女が躍起になって客を取ろうと頑張るというわけだ。
「ほんっと、あんたは運がない……」
頬に手を当てて、小手毬は、はあぁ、とことさら大きくため息をつく。
---運ね……---
運に頼って生きて行けるほど、この世は甘くない。
特にこのような苦界であればなおのこと。
その上その僅かな運も、散茶女郎には初めからないも同然だ。
心の中で嗤い、菫菜は鈴掛の部屋を後にした。