「もぅ、そうじゃないって。あんただってその気になれば、気に入ってくれるお人は多いはずだよ。何でそんなに卑屈なんだか」

 苛々と膝頭を叩く小手毬とは違い、鈴掛は、じ、と菫菜を見た。
 特に飾り気のない菫菜だが、髪には一本、柘植の簪が刺さっている。

「菫菜が、他のお人に誘いをかけないのは良いけども。新三郎様には、文を出したの?」

 穏やかに問うた鈴掛に、菫菜は、ちらりと視線を動かした。
 新三郎は、少し前から登楼するようになった侍だ。

 侍とはいえ、浪人である。
 金のかかる遊郭へなど、そうそう足繁く通えるものではない。

 だが菫菜は、存外新三郎のことを好いているようで、張り店に出ても、いつもは目立たぬところでぼんやりしているのに、新三郎がやってくると、いそいそと前へ出る。

 新三郎のほうも菫菜を気に入っているようだ。
 何回目かに、菫菜は新三郎から簪を貰っていた。