「相変わらずね、菫菜は。お前ぐらいよ、今日このときに、そんなのんびりしているのは」

 部屋の奥で鏡台に向かっていた鈴掛が、菫菜を見て言った。
 まさに、爽やかな花の香りが広がるような美しさだ。

 心根の優しい鈴掛は、特に自分付きではない菫菜でも、昔から何かと面倒を見てくれた。
 その縁で、唯一菫菜が懐いている姐さんだ。

「姐さんだって」

 言いつつ、菫菜は部屋に入り、隅に座り込む。
 部屋の中に控えていた振袖新造の小手毬(こてまり)が、少し眉を顰めて膝を進めた。

「あんたもほんとに、ちょっとは頑張って稼ごうって気にはならないの? 散茶だって、皆一心不乱に文書いたりしてるよ?」

「そりゃ、そんな伝手(つて)がある奴なら、片っ端から打つだろうよ」

 投げやりに、菫菜は言う。

「姐さんだって、今は当たり前だけど、昔っからそんな必死になってなかった」