---だったらあくせく働くだけ、無駄じゃないか---

 十二で紅梅楼に売られてから、菫菜はただ『生きて』きた。
 何も考えないし、何にも心は動かない。

 諦め、というのか。
 人生に希望など、あろうはずがなかった。

 とはいえ、あまりにぼんやりしていると、今日に限っては、ことさら遣り手がやかましい。
 菫菜は立ち上がると、一つの部屋に向かった。

 廓の奥の、一際立派な一角。
 近くの同じような格式の部屋は月見のための準備でやかましいが、この部屋だけは静まり返っている。

「菫菜です。姐さん、よろしい?」

 小さく告げる。
 ここは元・花魁である鈴掛(すずかけ)の部屋だ。
 すぐに襖が、すっと開いた。