「ほら菫菜(すみれな)。ぼけっとしてないで、姐さん方のお手伝いでもしたらどうだい?」

「お前と違って、姐さんたちは忙しいんだから」

 遣り手や番頭新造が、部屋の隅で窓に寄り掛かっている遊女に向かって、口々に言う。

「全く、今宵はどいつも目の色変えて、お客を取りにいってるってのにさ」

 遣り手の小言を、遊女は無表情で聞き流した。

 菫菜というこの遊女は、この紅梅楼の散茶女郎だ。
 上位の遊女と違い、この店の二階の自室で客を取る。

 元々それなりの歳になってから山間の村から売られてきた田舎娘など、花魁になどなれるわけがない。
 花魁になるのは、端からこういった色町で生まれた者か、もっともっと小さい頃に売られた、一握りの女子だけ。

 そういった者とは、進む階級からして違うのだ。
 禿(かむろ)期間も経ていない散茶が、最上級の花魁になど、なれるわけはない。