思わず立ち上がったまま、あっけにとられていると、高槻くんの低い声が耳に入る。
「すぐそこに、空港の滑走路があるんだ」
「すごい……! すっっごい!」
鳥肌が立ったことを伝えると、高槻くんは嬉しそうに笑った。
「ここに来るとさ、なんかいろいろ悩んでることがあっても、一瞬で吹っ飛ぶ気がする」
「うん……うんっ!」
空を飛ぶ大きな機体が、巨大な力になって、すべてを押し流していくような感覚は、
わたしにも分かるような気がした。
一見何もない場所に、突然現れる、巨大な技術の結晶。
ここが、高槻くんの、一番好きな場所――。
「凄いよなぁ、人間て。あれに乗って、どこにでも行ける」
缶ジュースに口をつけながら、高槻くんは暮れはじめた西の空を見やった。
さっきの飛行機は、もう米粒ほどの大きさにしか見えない。