前の方でフラッシュがたかれて目を向けると、
ステージと一列目の座席のあいだにある狭いスペースに、真剣な表情の遼くんをカメラに収める男の人の姿が見えた。
その人を指で示し、高槻くんが椅子にもたれたまま言う。
「あれ、うちの親父」
カメラを構えた男性はメガネをかけていて、顔まではよく分からなかったけれど、
すらりとしていて周りのお父さん方よりも背が高い。
「ちなみに母親はとなりでムービー撮ってる」
確かに、メガネの男性のとなりには中腰でビデオカメラを掲げている女性の背中が見えた。
「あんなとこに立ってたら邪魔だってのに」
ため息混じりに「親バカだから」と言う高槻くんがなんだかおかしくて、つい笑ってしまう。
ピアノのことはよくわからないけれど、遼くんは小学二年生とは思えないほど堂々と鍵盤を叩いていて、
一度も引っかかることなく最後まで弾き終えた。