洗面所の鏡を覗いて、わたしは人生2度目のくすぐったいような甘い気持ちを覚えた。


そこに映っていたわたしは、たしかにあのときの奈央。


「さあこれで心おきなく罰ゲーム野郎を落としてこい!」


ばんと強く背中を叩かれてむせてしまう。


「お、落とすって?」

「恋い焦がれさせてやれって意味だよ」


ドラマの悪役がするような放送禁止ぎりぎりの笑みを浮かべて、兄はわたしを玄関まで見送った。


あれってもしかして、楽しんでるだけなんじゃ……。


そんな疑念を覚えながら、わたしは待ち合わせの駅に急いだ。