愛ちゃんは内線を手に取り、再び俺様ドクターに立ち向かっていた。
だが、相手は着信を無視しているようで、出てくれる気配がない。
「百井さん・・・・・・出てくれません・・・・・・」
眉をひそめて不安そうに私の顔を見る愛ちゃんの表情を見ていると、急に怒りが込み上げてきた。
仕事放棄かよ!!
あの男、どこまで調子に乗っているんや!!
「私、行ってくる!!」
皆が言葉を発するより前に私は立ち上がり、宣言していた。
「もも・・・・・・大丈夫か?」
心配そうな表情の束ちゃんを見て頷くと、私はナースステーションを飛び出した。
あいつ、ほんま許されへん!!
そりゃ、食べすぎかもしれへんけどさ・・・仕事を放り出すなよ!!
感情的なまま廊下を突っ切って、エレベーターに乗り、医師当直室のある一階に向かった。
静まり返っている夜中の病院というのは、不気味なものだが、今の私は、興奮しきっているので、何も感じることはなかった。
ただ、私の足音とブツブツと愚痴をこぼす声だけが響いていた。
そして、当直室の前に立つと、まるで借金取りの取りたてのように激しくドアを叩き、
「佐々木先生!入りますよ!」
とだけ言うと、遠慮もなく当直室に入った。
目の前には、部屋の隅に置かれた机に向かっている俺様ドクターの背中しか見えなかった。
「何?もう少し、静かに入って来れないのか?」
何の動揺も感じさせない口調で、ふり返らずに言う男に殺意さえ覚えた。
はあ?この男は、なんでこんなに偉そうやねん!
私は溢れて来そうな暴言をぐっとこらえようと、目を閉じて、歯を食いしばり、拳を握りしめていた。
「失礼しました。佐々木先生・・・・・・私は、看護師の百井と申します。診察をお願いします」
・・・・・・話す時は、人の目を見なさいって教えられていませんか?
どこまでも腹の立つ男の背中を刺すように睨んでいた。
「もしものことがあっては・・・・・・」
「君が怒られる?俺にはそんなこと関係ないし」
頬杖をつきながら、憎たらしいくらい長い脚を組み、体を半分私の方に向けた男は、冷たい視線で言い放った。
そのあまりにも冷たい視線に私は魔法を掛けられたように固まってしまた。
「図星でしょ。患者が大事とか言いながら、自分の身が大切なんやろ」
その言葉に、私は目の前の男を睨みつけた。
「そんな睨んでも、怖くないよ。あれ?泣くの?そういや、電話でも泣きそうやったもんね」
この男、最低。
私は、一呼吸置いて、自分が言っておきたいことを口にした。