「なぁ、今日どこか行きたい所ある?」


彼は、昨日私が作ったかぼちゃの煮つけを食べながら聞いてきた。


「せんせ…瞬さん、体調は?」


そう、彼は昨日体調が悪くて寝込んでいたんだ。

今は、どう見ても元気そうだが、無理しているといけないので聞いた。


「体調?一日寝たら復活した。元から体は強い方やからなぁ。それに睦美が来てくれたしな」

屈託のない笑顔を見せると、彼は大きな口を開けてご飯をほおばっていた。


「それならよかったです。でも無理しないでくださいね」

「あぁ、わかってる。心配してくれてありがとう。で、どこに行きたい?」


彼はどうしても出掛けたいようだ。
おそらく、「今日は休みませんか?」なんて言っても聞いてくれないだろう。



だから、質問の答えを考えた。

そして、自分が持っているフォークを見て、思い付いた。


「私の箸とかお茶碗とか置いてもらってもいいですか?」


この部屋には、本当に1人分の食器しかなく、私はごはんをお皿に入れて、フォークで食べている。


かろうじて、お皿だけは、数枚あったので助かった。



「もちろん。」
満面の笑みで答えてくれたことで、私の顔も緩むのがわかった。



「じゃぁ、今日はいろいろ睦美の物を買いに行こうか」


「はい!」


ようやく明るくなってきた外の光を受けて、彼の表情が柔かく見えた。



「ほんま、料理うまいよな」


全てを食べ終わって、彼は脚を伸ばして手を後ろについてくつろいでいた。


テーブルを拭いていた私は、照れくさくて、「ありがとう」と目も合わせずに言った。


料理が上手と言われるのはとても嬉しく、小さい頃から母のお手伝いをしてきて良かったと思った。