「ちがう・・・・・・私が作ってあげたいと思ったから」


彼の手に自分の手を重ねて、彼に身を委ねた。


すると彼の腕の力が強くなり、「うれしい!ありがとう」と耳元で言われた。


片付けられたキッチンに、微かに漂うお味噌汁の匂いの中で、私の背中は彼の胸の鼓動を感じていた。


耳には、彼の声と息づかいしか聞こえないくらい静かだった。


私が目を閉じて、この空間を感じていると、ふいに腕の力が緩められ、この心地よい時間の終りが来たのだと気付いた。


「睦美・・・こっち向いて」


相変わらず吐息混じりの声に刺激されるように私の胸は高鳴り、ゆっくりと振り返った。


目の前には、グレーのトレーナーのワンポイントが目に入った。


この胸に抱きしめられていたのだと思ったら、顔が熱くなってきた。


「俺の方向いて」


誘導されるように、私は彼の顔を見上げると真剣な表情の中にも優しさが見られた。


彼の瞳に吸い込まれる見つめると、ゆっくりと彼の顔が近付き、状況が把握できた。


そして、目を閉じると、彼と私の唇が重なった。


触れた瞬間、血液が体のすみずみまで行きわたるような感覚に陥った。


体中があつい。


目の前の彼の顔も真っ赤になっていることで、自分の顔色も容易に想像できた。