事務所内には、受付の子以外には誰もいなかったので、自分でカルテを探した。

「さ、さ、佐々木・・・あった!」


カルテを見つけると、事務所を出て再び診察室へ戻った。



「鳴りましたか?」


「あぁ、これ」


そう言って渡された体温計を見ると、38.8℃と示していた。


「だいぶ熱があるじゃないですか」


「うん。見たらへこむから測らんかった」


そう言って無理に笑顔を作っている様子でさえ痛々しい。


「そんな子どもみたいなこと言って。

先生、ご自分で点滴と内服薬の指示を書いてください」


「あぁ・・・・・・」



ゆっくりとした動作で彼はペンを取り、自分のカルテに指示を書き始めた。


「じゃぁ、先生、こっちに来てください」
と私の肩を貸して、先生を外来の点滴室へ連れて行った。


「ベッドに横になっていてくださいね」


それだけ言って私は院内薬局へ行き、点滴を受け取ると、外来の点滴室のベッドに向かった。


ベッドに近づくと、白衣を脱いだ佐々木先生
が、布団も掛けずに横になっていた。



「布団掛けないと、寒いでしょ・・・・・・」


「あ、ありがとう」



もう閉じてしまいそうな目で私のことを見ながら、言う声は弱々しく、すぐに助けてあげたいと思った。



「先生、腕を出してください」


私の指示に頷き袖を捲りあげると、男らしいしっかりとした腕が出てきた。



「楽にしていてくださいね。痛かったら言ってくださいね」



点滴のスピードを調整しながら言うと、「ありがとう」と少し落ち着いた様子を見せてくれた。


私達以外は誰もいない点滴室は静まり返っていて、物音一つ聞こえなかった。




先生が目を閉じたのを確認して立ち去ろうとした時、急に話しかけられた。



「そういえば、お前、なんでここにいるん?」



「今日、回診についた人が、先生が風邪をひいているって言ってたので・・・・・・」



だから心配で来た、とは言うことはできなかった。



「そう、少しでも気にかけてくれたんや」


「・・・・・・」



「よかった。今日、会えなかったから、避けられてるんかと思った」



安心したようにつぶやく先生を見ると、胸が締め付けられるように痛かった。



「今日は、夜勤ですから」



「そっか、そりゃ会われへんよな」



先生は、自嘲的に笑い、遠くを見るように天井を見つめていた。