「そりゃ、体に良くない!医師は、体が資本だからちゃんと栄養が偏らないように食べないと!睦美、先生に食事を作って差し上げなさい!」
えっ・・・・・・お父さん、今何と?
「それはいいわね・・・」
ちょっと待って、お母さんまで・・・・・・。
「そんな悪いですよ」
そうそう、なんで私が作らないといけないのよ!
遠慮していた瞬さんは・・・すっごい笑顔だった。
「花嫁修業だと思って、ねっ!」
「お母さん、『ねっ』じゃないから」
「睦美わかったな!」
3人でさっさと話を進めていて、私が入る余地なんてなかった。
「・・・・・・」
「じゃぁ、お言葉に甘えて・・・・・・」
そう言いながら、佐々木先生は、私を見て怪しげな笑みを零していた。
甘えないでください・・・。
私の思いは全て無視され、話は進んでいた。
「そろそろ、帰らないと・・・・・・ねっ?」
私は、「帰ってほしい」と顔で訴えると、彼は「そろそろ僕は・・・」と言いながら、ゆっくりと立ちあがった。
当然、私が外まで送ることになり、寒い中上着を羽織って外に出た。
「よくもあんなこと言えますね」
私が呆れながら言うと、佐々木先生は
「だってさ、お前にその気がないみたいやから、両親から落とそうと思って」
と堂々を言ってのけ、私の前にVサインを出した。・・・・・・やっぱり知能犯だ。
「詐欺師」
「最高の褒め言葉をありがとう」
あぁ、私はなぜこんな人に捕まったのだろう。
「・・・・・・」
「じゃぁ、今度飯作ってね」
『ね』なんて言ってもかわいくないし!
「はぁ?あれは、あの場だけのことで・・・」
「いいのかな?そんなこと言って・・・お父さんに言いつけるよ~」
・・・・・・この知能犯!
いや、詐欺師!
いや、ドSが!!
「・・・・・・もう知りません」
私がふくれっ面で佐々木先生の顔を睨みつけても、彼は私を優しく見つめていた。
そんな優しい表情をされたら、私のこの怒りの持って行き場所がなくなってしまい、スルスルと引っ込めるしかなくなった。
「まぁ、すぐにとは言わないよ。
少しでも俺のことが好きになってくれたらいいから」
さっきまでのふざけた様子ではなく、真っ直ぐに私の目を見て言ってくれた言葉を無下にはできなかった。
かといって、『わかりました』とも言うことはできなかった。
私が佐々木先生を好きになる?
そんな時が本当に来るのか?
と思いながらも、私の軸は彼の方に傾いているような気がしていた。