「じゃぁ、仕事は何をしている。胸を張れるような仕事なのか?」


あぁ、なんてアホなことを聞くんやろう、この父は・・・。


「僕は、県立大学付属病院の消化器外科の医師をしている佐々木と申します」


あぁ、言っちゃった。


佐々木先生の自己紹介で、父の表情が一瞬にして変わったのがわかった。


「医師って、ドクター?」


「あらっ」


母も父と同じように驚いていた。


「はい。まだまだ勉強中ですが・・・」



軽く頭を下げながら言う佐々木先生に対して父は背筋を伸ばしたかと思うと、勢いよく頭を下げた。



「失礼なことを言って申し訳ありません。

ふつつかな娘ですがよろしくお願いします」


え――っ!!


っと叫んでしまいそうなくらい掌を返した父の態度にひっくり返りそうになった。



さっきと言っていることが違うんですけど?



「頭を上げてください」


佐々木先生も父の変わりように焦って、ソファから身を乗り出して頭を上げてもらおうとしていた。


「・・・・・・すみません」


また、お父さん謝ってるし。


頭を下げっぱなしの父もようやく落ち着いたのか、ソファに座り直し母が出してくれたお茶を飲んでいた。


「あの・・・・・・先生、睦美のどこがいいのですか?」


今、そんなこと聞くか??


「仕事を一生懸命にしている所や、患者さんに対して笑顔を絶やさず接している所を見て、優しい子だなと思いまして・・・」


こっちも即答したし!


しかも絶対に嘘だし!!


「いや・・・・・・睦美が・・・・・・」


何か言いたいのだろうけど、言葉が出て来ないようだった。


「お父さん、先生なら安心ですね」


「・・・・・・そうやな」



ボソッと父も頷きながら言っていた。


いったい何が大丈夫なんだか。


「先生、睦美をよろしくお願いします」


おいおい!勝手に話を進めないでよ!!


「ところで、先生はご実家で暮らしているのかしら?」


何をいきなり聞く?この母は!


「いえ、病院の近くで一人暮らしをしています」


へ―そうなんや。知らなかった。


「じゃぁ、お食事は?」


「もうだいたい外食かコンビニの弁当です」


そうなんやぁ・・・・・・でも男性の一人暮らしだとそうなるよね。


私が「そうかそうか」と頷きながら、父の顔をちらっと見ると、なぜか険しい顔をしていることに気付いた。